セイフリード教授、ドゥラージ博士らの新研究論文「悪性脳腫瘍の治療におけるケトン代謝療法」
アンソニー・チャフィー医学博士:トーマス・セイフリード教授とトマス・ドゥラージ博士をはじめとする研究者による最新の研究論文が発表されました。この論文では、膠芽腫(GBM)の治療におけるケトン代謝療法(Ketogenic Metabolic Therapy)や、標準治療以外の代替的な方法について包括的に検討しています。さらに、この原則は他のがんの治療にも応用可能であることが示されています。私も(遠い立場ながら)共同著者として関わらせていただきました。
Brand new research paper out by Professor Thomas Seyfried and Dr Tomas Duraj et al, on which I am honored to be a (distant) co-author. It is a comprehensive look at the use of ketogenic metabolic therapy and alternate methods outside of the standard of care for the treatment of… pic.twitter.com/Qi876YGiWm
— Anthony Chaffee, MD (@anthony_chaffee) December 6, 2024
静岡てんかん・神経医療センター
ケトン食療法とは、食事の内容を工夫することにより、ケトン体を糖分の代わりに脳のエネルギー源として活用できる状態に人為的にすることで、治療に応用することを指します。様々な領域でケトン食療法は活用されていますが、てんかんに関してはてんかん発作が減少する効果が期待できることが分かっています。
具体的には、脂質はケトン体を作りやすく、炭水化物(糖質)はケトン体を消す方向に働き、タンパク質はその中間です。したがって、脂肪が多く炭水化物(糖質)が少ない食事を摂取することにより、ケトン体を体内で生成させることができます。(静岡てんかん・神経医療センターHP)
癌ケトン食研究会事務局 大阪大学大学院医学系研究科
近年、糖質を控え、脂肪を増やす食事であるケトン食(低炭水化物高脂肪食)によって、癌の成長が妨げられる効果が注目されています。ケトン食による病気に対しての治療応用は、実は長い歴史があります。古くは、ヒポクラテスによって、てんかんに対する絶食の効果が報告されました。それをもとに、1921年アメリ力のWilderによって絶食より負担の少ない食事としてケトン食が考えられ、てんかん患者において劇的な発作軽減効果が報告されました。日本においても、小児科の先生を中心に、難治性てんかんの患者さんに対してケトン食の指導が行なわれており、ケトン食の有効性と安全性が確認されています(HP)
ケトン食療法が膠芽腫治療(悪性脳腫瘍)の新たな希望に――代謝療法の臨床研究フレームワークを提案
公開日 2024/12/5
膠芽腫(glioblastoma, GBM)は成人において最も多い悪性脳腫瘍であり、その侵攻性の高さと再発率の高さから、患者の生存率改善は依然として困難な課題となっている。現在の標準治療である手術、放射線、化学療法を組み合わせても、治療効果は限られている。このような中、科学者たちはGBM治療の新たな可能性として、ケトン食療法(Ketogenic Metabolic Therapy, KMT)に注目している。本療法は腫瘍細胞の代謝特性を標的とし、治療抵抗性の克服を目指すものだ。
GBMの代謝依存性を標的に
GBM細胞は、その増殖に必要なエネルギーを主にグルコース(解糖系)とグルタミン(グルタミン分解)から得ている。この特性は、腫瘍細胞のエネルギー供給を遮断する新しい治療戦略として有望視されている。今回提案されたケトン食療法は、患者の代謝を「ケトーシス」という状態に導き、腫瘍細胞のエネルギー供給を阻害することで治療効果を発揮する。
ケトーシスとは、高脂肪・低炭水化物の食事を通じて体内のケトン体濃度を上昇させる代謝状態である。この状態では、正常細胞はケトン体をエネルギー源として利用できる一方で、腫瘍細胞はこれを効率的に利用できず、エネルギー不足に陥る。
食事療法と薬物の組み合わせ
ケトン食療法の基本となるのは、高脂肪・低炭水化物のケトジェニックダイエットだ。これに加えて、以下のような薬物治療を併用することが提案されている。
1. 解糖系の抑制: グルコース代謝を抑える薬剤(例: 2-デオキシグルコース)を使用。
2. グルタミン分解の阻害: グルタミン拮抗剤によって、腫瘍細胞のグルタミン利用を抑制。
3. 補助療法: 放射線療法や化学療法を組み合わせ、相乗効果を狙う。
これにより、腫瘍細胞の主要なエネルギー源を断つことが可能となる。
効果測定の新たな基準「グルコース-ケトン指数(GKI)」
治療効果を測定するために、グルコース-ケトン指数(Glucose-Ketone Index, GKI)が標準的なバイオマーカーとして提案されている。この指数は血液中のグルコースとケトン体の比率を表し、値が低いほどケトーシスが進行しており治療効果が高いことを示す。これにより、患者の代謝状態をリアルタイムでモニタリングしながら治療を最適化できる。
臨床研究のフレームワーク
提案された臨床研究フレームワークでは、無作為化比較試験(Randomized Controlled Trials, RCT)を実施し、標準治療群とKMT群を比較することが計画されている。この研究では、生存率、腫瘍の進行、患者の生活の質(QOL)を主な評価項目とする。また、対象患者には新規診断されたGBM患者と再発患者の両方を含む。
研究では、KMTがGBM以外の解糖系やグルタミン代謝に依存する他の腫瘍にも適用可能であることが検討される。膵臓がんや大腸がんなど、代謝特性が類似するがん種への応用が期待されている。
将来の展望
本研究は、GBM治療における代謝療法の可能性を示すものであり、従来の治療法を補完する新しいアプローチとなることが期待される。特に、個別化医療の一環として患者ごとに最適な治療法を提供するための基盤となる可能性がある。
ケトン食療法は、腫瘍細胞のエネルギー供給を絶つというシンプルながら革新的な戦略であり、膠芽腫患者の生存期間延長や治療効果向上に貢献する可能性がある。今後、臨床試験を通じてその実効性が明らかにされることが期待されている。(bmcmedicine)